アスイロ恋模様

140文字に収まらない感想や妄想の置き場です

感想『宇宙よりも遠い場所』~良薬は口に苦し~

 子どものころ風邪薬を飲むのがとにかく嫌いだった。粉状や粒状にシロップ、形は色々あれど全部不味いし飲みづらいし、効能があると分かっていても「アレを飲むくらいなら治らないままでいい!」なんてワガママばかり言ってた。それから10数年経ち、流石に風邪薬くらいは飲めるようになった。しかし、幼少期のそんなワガママを叫びたくなるほど”苦い”作品に出会ってしまった。

 

宇宙よりも遠い場所

 2018年1月のTV放映当初から話題を呼び1年経った今でもオタクの口から名前の挙げられる本作。啓蒙活動とは無縁な友人からも熱のこもった声で「よりもいを見てくれ!」と懇願された記憶がある。

 しかし、斜に構えがちだった当時の私は「みんなよりもいの話しかしないし逆に何があっても観ないぞ」と謎の意地を張っていた。

 そんなこんなで1年半経った19年の7月末。冷房の効いた部屋でベッドに寝転がりなら某アニメストアを徘徊中「あなたにお勧めのアニメ一覧」に掲載されたよりもいを発見。「そういえばこんなアニメあったな。去年は意地張ってたけど、1年経ったし季節感皆無な今観てみるか」なんて理由で視聴開始(面白くなかったら1話で切ればいいし)

 

 

 


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あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『おれはPCの前でよりもい1話を再生していたと思ったらいつのまにか13話を視聴し”終えて”いた』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
寝落ちだとか倍速再生だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 

 

気付いたらマジでこれ。

ひたすらに前進しつづける少女たちを見て、ただただ呆然としているしかなかった。

よく「楽しい時間は一瞬に感じる」って言うじゃないですか。でも決して、よりもいを観ていたその時間は楽しいことばかりじゃなかった。何なら辛くて厳しい時間の方が長かった

それでも彼女たちから目を離すことはできなかった。

彼女たちが踏み出す一歩一歩。

その足跡を1つも見逃してなるものかと体が勝手に机にかじりついてた。

以下、視聴して思ったことのまとめです。

 

 よりもいが貫いたテーマ

 16,17歳の少女4人組が色々な困難を乗り越えつつも南極を目指す。ものすごく端的に書くとそれがよりもいのストーリー。しかし、南極を目指す中で何度も何度も問われ続けたテーマがある。

「前に進むこと」×「本当のともだち」

 南極を目指すという大きな目標はあるが彼女たちが直面する壁はごく普通の高校生や思春期の少年少女が抱えるものと変わらない。

失敗を恐れず一歩前に踏み出すこと

本当のともだちについて

 大人から見れば青臭くて、同年代から見れば恥ずかしくて口に出せないこのテーマを、彼女たちはひたすら愚直に正面から向き合って何度も何度も傷ついてそれでも足を止めることはなかった。

 その姿に感動する一方でそれ以上に自分と彼女たちを比べて死にたくなることも(もはや劇薬)

 

悩み苦しむ登場人物の姿に自身を重ねる 

 上記で書いたように全力で視聴者を殴ってくるよりもいは全13話で構成されているが無駄な話数は1つもない。どのエピソードを再生しても笑って泣いて悩みながら前へ進む人間が映っている。

 その中でも5話は自分史上最大の衝撃で、高橋めぐみという人間にこれでもかという勢いでぶん殴られた。少しではあるが、そのシーンを抜粋。

 「高校生になったんだから何かしたい! 今しかできないことがやりたい!」高校入学当初、誰もが一度は抱いたことのある感情。ありていに言えば”春青したい”という想い。その気持ちを2年生になっても忘れられない主人公 玉木マリ(通称キマリ)。充てのない旅に出たり、学校ズル休みして東京に出たい!と友人に相談して実行するも結局途中で引き返して学校に戻ってきてしまう。

やったことない始めて

上手くいかなかったらどうしようって

失敗したら嫌だなあって

後悔するだろうなあって

ギリギリになるといつも -玉木マリ-

 そんなキマリを幼い頃からそばで見て、これからも支えていくと思った友人の高橋めぐみ。しかし、紆余曲折あり仲間4人で南極へ向かうことが決まり、慣れないことに奔走するキマリ。そんな親友を見てめぐみの放った一言

無理しすぎないようにな

それ以上頑張って駄目だったら

すごい後悔するだろうから -4話-

なあ無理するなよ

失敗したらそれだけ後悔が大きいから -5話-

 これまでは「失敗」「後悔」その一言で足を引っ込めて自分を頼ってきたキマリだったが今回は違った。自分に相談せずに南極行きを確定させ、新しいともだちを作り、自分の力を借りずにどんどん前へ進んでいくキマリ。

そして、南極出発の朝。めぐみはキマリの元を訪れる。

親友が別れの挨拶に来たと思い、自分の決心を伝えるキマリ。

キマリ「めぐっちゃんに頼ってばかりの自分が嫌だなぁと思って変わりたい。だから私頑張ってくる」

しかし、そんな思いとは裏腹にめぐみは絶交を告げる。

めぐみ「最初にお前が南極行くって言ったとき何でこんなに腹が立つんだろうと思った。昔からキマリが何かするときは私に絶対相談してたのにって。昨日キマリに言われてやっと気付いた。くっついて歩いているのはキマリじゃなくて私なんだって。キマリに頼られて、相談されて、呆れて、面倒見るようなふりして。偉そうな態度とって。そうしてないと何もなかったんだよ! 私には。自分に何もなかったからキマリにも何も持たせなくなかったんだ! 駄目なのはキマリじゃない。私だ。ここじゃないところに向かわなきゃ行けないのは、私なんだよ!...... じゃあな」

キマリ「一緒に南極行こうよ......めぐっちゃん!!」

めぐみ「バカ言うなよ。やっと一歩踏み出そうとしてるんだぞ。お前のいない世界に!」

実際に依存してたのはキマリではなくめぐみだった。前へ進んでいくキマリを見てそれに気付いた彼女。そして、自分も一歩踏み出そうとする。前に進むことで友達じゃいられくなったとしても、他の誰でもないキマリに気付かされたから。

 

私たちは踏み出す。

今まで頼りにしてたものが何もない世界に。

右にいけば何があるのか、家はどっちの方かも分からない世界に。

明日どこにいるのか、明後日どこへ進んでいるのか想像できない世界に。

それでも踏み出す。淀んだ水が溜まっている。

それが一気に流れていくのが好きだった。決壊し、解放され、走り出す。

淀みの中で蓄えた力が爆発して、すべてが、動き出す。

すべてが。動き出す。 -5話-

 

 正直私は高橋めぐみに自分の姿を重ねていた。どんどん前へ進んでいく友人を見て葛藤し、悪い噂を流したり、その努力を認めたくなかったり、わざと冷たい態度をとったりする彼女に。自分と同じラインだと思っていた人間が先に進む様を見るのはとても辛いから。登場人物全員が前に進めなくてもいいじゃないか。誰か1人くらいその場で立ち止って諦めても、と。

 学生時代、少なくとも私は高橋めぐみ側の人間だったし、多分よりもい視聴者の一定数も彼女に強く感情移入していたと思う。だから私は無意識に高橋めぐみに自分を投影していたし、彼女は視聴者の代弁者的役割もあったのだと考えていた。

 しかし、高橋めぐみは一歩前へ踏み出した。これまでキマリに頼りきりだった自分を捨て、怖くて進めなかった世界に。それはきっと女子高生が南極を目指すのと同じくらい大変なことで。これまでも目の前にあったが見てみぬふりしていた宇宙よりも遠い場所に、高橋めぐみは向かっていく。

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 The Girls Are Alright!

 冒頭でよりもいを苦いと表現した。しかし、改めて振り返ると苦いなんてものじゃなかった。前へ進む彼女たちの姿に驚き、感動し、対比して何処へも進んでいない自分の存在を叩きつけられる。普遍的テーマながらもこれほどメッセージ性の強いアニメは初めて観たかもしれない。

「よりもいは劇薬」

そう叫びながらも迎えた最終回

観てるこっちが死ぬほど辛かったけど

それでも

こんな自分でも

彼女たちみたいに一歩踏み出したい

よりもいを観た翌日何となく早起きした

特別なことはしてないけど多分これでいい

ここから、

ここから始めよう

 

旅に出て初めて知ることがある。

この景色がかけがえのないものだということ。

自分が見ていなくても、人も世界も変わっていくこと。

何もない1日なんて存在しないのだということ。

自分の家に匂いがあること。

それを知るためにも足を動かそう。

知らない景色が見えるまで足を動かし続けよう。

どこまで行っても世界は広くて、新しい何かは必ず見つかるから。

ちょっぴり怖いけどきっとできる。

だって。

同じ想いの人はすぐ気付いてくれるから

 

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