アスイロ恋模様

140文字に収まらない感想や妄想の置き場です

感想『ガーリッシュ ナンバー』~烏丸千歳と明日への途中で~

 

「イベントして、歌って踊ってトークして。陰口叩かれて焼肉食べて、声優ってなんだろうなぁ……。

わたしが言うのもなんだけど、この業界はおかしい」

 

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 はじめに

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』 を生み出した渡航俺たちのディオメディアがタッグを組んで世に送り出した問題作『ガーリッシュ ナンバー』。今回はその主人公である烏丸千歳の誕生日12月15日を迎えるにあたり、役の千本木彩花さんがご結婚したことの祝辞もとい、本作の1ファンとして「烏丸千歳」そして『ガーリッシュ ナンバー』への思いや感謝を形に残そうと思い立った。

といっても私がこの作品を視聴したのは令和元年の11月末。つまりファン歴としては1ヶ月半年未満なので偉そうに作品を語るなんておこがましいかもしれない。だが「鉄は熱いうちに打て」のことわざにならって例え稚拙な文だとしても今のホットな感情を思いっきり打ちつけようと思う。

ガーリッシュ ナンバーの第一印象

ここからは私がアニメ『ガーリッシュ ナンバー』に惹きこまれた魅力や特徴、面白さについて簡潔にまとめたいと思う。まず私はこのアニメの予備知識はほとんど皆無の状態で視聴をはじめた。烏丸千歳という主人公がいて、新人声優の彼女が声優業界で笑いあり涙ありでスターダムに駆け上がるよく見られるタイプのシンデレラストーリー程度に認識していた。あとアニクラでよく「SSS」って曲を耳にするくらい。

肝心の内容は、熾烈な競争が繰り広げられる声優業界のリアルを描いた作品…というよりも「烏丸千歳」という主人公と周囲の環境を描く作品に、声優業界が一番舞台として表現しやすいために選ばれたと言った方がしっくりくるだろう。

だから、予定調和じみた優しい世界、現実はこんなに甘くない、といった類の指摘や批判は少し見当違いかもしれない。

烏丸千歳だけでなく、その仕事仲間であったりスタッフであり、そうした登場人物たちのキャラクター性に主眼を置きながら、彼らが持つ矜持やだからこそ生まれる化学反応とも言える人間模様を楽しむ作品として捉えるのが良いと感じた。

憧れと現実の間で彷徨う不器用な登場人物たち

本作は5人のヒロインが登場する。

ナンバーワンプロデュース

烏丸千歳 ・久我山八重 ・片倉京 ・???

ヴォイスエンタープライズ

苑生百花

いろはプロダクション

柴崎万葉

上記5人は各々が夢や憧れを追いかけてこの業界に足を踏み入れた。

母親が大御所声優で父親が有名アニメ監督の環境と才能に恵まれた現役JK声優の苑生百花。片田舎から役者になるのを誓ってその身一つで東京に飛び出してきた意識高い系実力派声優の柴崎万葉。この二人は人気声優として色々な作品に引っ張りだこである。

しかし全員が順調に声優としての階段を上がっているわけではない。

ナンバーワンプロデュース(以下ナンプロ)の3人は泣かず飛ばすで、確定申告の必要ない年収だけは順調にキープしている有り様。女子大生の烏丸千歳と養成所時代からの唯一の友だち天然あざとい久我山八重の新人二人。関西から上京し20代半ばながら未だに花の咲かない片倉京。その中でも千歳はバーター*1のモブ役として番組レギュラーで呼ばれており、新人声優としてはかなりマシなほうだったりする。それでも月収は他のアフレコと合わせても約5万円*2でとても声優一本では食べていけないけれど。

そんな正反対の境遇にいる5人が大人の事情「政治案件」によってアニメ化された作品にヒロイン役として一堂に会して物語は進展する。そして徐々に明らかになる各々の憧れと悩み。

他人からしてみれば「え、なんでそんなことが分からないの?」と取るに足らないと思われるかもしれない個々人の苦悩。一見簡単に解決しそうでも当の本人はどの選択が自分にとって正解なのか分からない状況。それに対して本人がどのようなプロセスを踏んで立ち向かっていくのかを「仕事に対するプロ意識」「言葉と心の距離」「仲間との関係」を主軸に描いているのが本作の大きな魅力だ。 

逃走の末に烏丸千歳が選んだ答え

そしてなによりも魅力的なのが声優、烏丸千歳の性根の腐った言動と根拠の無い自信、仕事への熱意の無さである。このアニメが良い意味でも悪い意味でも他のアイドル・お仕事ものと一線を画すのが彼女「烏丸千歳」の存在だ。

主人公である千歳は友情・努力・勝利といったTHE主人公とは程遠いところに城を構えている。きっと日本とブラジルくらい離れてるせいで実際に会った経験もなければ言葉も通じないくらい「熱意」に縁がなくて興味もない。また自身の声優としての実力を信じて疑わず、むしろなぜ今まで自分がオーディションに落ちてきたのかとその審議を疑うレベルでポジティブがカンストしてるだろう。おまけに偶然メインヒロイン役に選ばれてしまったから余計に声優と業界を舐め腐った態度をとるようになってしまった。

だから初視聴のときはどこまでもクソ生意気で成長しない新人声優、烏丸千歳を半ば飽きれながら眺めていた。だが3話で初めてメインヒロインとしての収録に臨む中で周囲の状況から自分の実力のなさに気づいて凹んでしまう。その後人気声優の百花からの助言もあり、ゴミみたいな演技→及第点だがテンプレのつまらない演技に千歳はレベルアップを果たし自信を取り戻した。。そのシーンはほんの少し成長を感じさせたがその上の演技を目指そうとせず、ただただルーティンワークで役を演じるようになり、千歳はそこで満足してしまった。

おそらく視聴者の中には全く成長する気配が見られず分をわきまえないで調子に乗る彼女を不快に思って視聴中断する者もいたかもしれない。その気持ちも分からないわけではない。だが私は飽きれると同時にそんなクズでどうしよもなく見栄っ張りの烏丸千歳をどこか憎めず好きになっていた。多分無意識の内に彼女の姿にどこか自分を重ねていたのだと思う。

そして、この作品は紛れもなくクソ新人声優、烏丸千歳の物語である。時間が経ち、千歳に憧れて声優を目指す現役JKの疾走ルーキー桜ヶ丘七海が登場する9話からストーリー「烏丸千歳」は揺れ動く。

新人新人と言ってきた自分に後輩ができただけでなく、八重や京そして七海にも順調に仕事が増えている中でひとり変わらずモブ役ばかりをポツポツとこなす千歳。そして兄の悟条が七海の担当マネージャーになり、事務所主催のライブで七海のソロCDデビューがサプライズ発表された。その時、自分がいなくても滞りなく進む収録現場やイベント会場を目の当たりにして、千歳は自分の置かれている状況に気付いてしまった。

逃げ続けてきた現実と直面して今まで築いてきた自信という名の堅牢な城が実は根拠の何もないハリボテのおもちゃだったと知ったとき、千歳は折れ、堕ちていく。逃げるように信じ続けてきた理想の自分と目を背け続けてきた現実の間で烏丸千歳の選んだ答え。それこそがこのアニメの最強最大の魅力だ。

本アニメの各回の盛り上がりを折れ線グラフで表すなら確実に右肩上がりで、9~12話でグラフの枠を破りエクセルを飛び越えPCを貫いた勢いで視聴者の琴線に触れるだろう。それほどまでに『ガーリッシュ ナンバー』のクライマックスは、「声優、烏丸千歳」は9話以降に集約されている。

最終回に近づくにつれてどんどんストーリーの面白さが増していき、最終回で視聴者が待ち望んでいたコースに最高のタイミングでボールを投げるアニメ。だがシンプルで分かりやすい演出や展開は見方によっては稚拙に映るかもしれないし、ご都合主義の予定調和にも見えるかもしれない。

しかし、だからこそ『ガーリッシュ ナンバー』は私の胸に強く刺さったともいえる。難解な世界観や設定・緻密に練られた伏線を繋ぎ合わせる以外にも、下り坂をブレーキかけずに自転車で駆け抜けるような気持ち良さを求める日だって必要だから。

 

第1話「やさぐれ千歳と腐った業界」

ここからは一話ごとに印象に残ったシーンや感想、考察を交えつつ『ガーリッシュ ナンバー』が何を伝えたかったかのを読み解いていこうと思う。実際は読み解くなんて大層なものではなくひたすら妄想とこじつけをしているだけかもしれない。良いアニメを観たらポエムを詠んでしまうのは世の常。

まず基本的に本作品は烏丸千歳の視点で描かれ進むのを念頭に置く。*3

物語は、あるアニメのイベントが惜しまれつつも終了するシーンから始まる。

イベントの締めくくりにキャストが感想を一言ずつ発表するコーナーで、用意していたセリフが他人と被り内心愚痴る千歳。どうにかその場で感想を捻り出そうと視線をキョロキョロさせ考え事をしていると、右の方から聞こえてきた会話。その事務的なトーンで淡々とセリフの分担を話し合うメインヒロイン役の二人組に千歳が困惑しているところに順番が回ってくる。

焦るあまり放送事故スレスレな発言をして頭を下げるも、恐る恐る客席の反応をうかがうと予想以上の好感触に千歳は自信満々な笑みを浮かべる。そのあと先ほどのメインヒロイン二人が別人のような明るい表情で感想を述べたあと、二人が歌うアニメのオープニングテーマ「決意のダイヤ」を披露するためにキャスト陣と千歳が舞台袖にはけたところで『ガーリッシュ ナンバー』のタイトルロゴがドーン!

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そしてパフォーマンス中の誰も見てない舞台裏で音楽にあわせてクルッとターンするもバランスを崩しかけて、どうにか体勢を持ち直したあとに破顔する千歳。

この間、約4分30秒。

その270秒に『ガーリッシュ ナンバー』の全てが詰まっている

と、私は感じた。言い換えるならこの作品の伝えたい要素がギュッと濃縮されている。突拍子もない話に聞こえたと思うので二つに分けて読み解いていく。

 まずはじめに千歳の人物像が読み取れる点だ。

事前に用意したイベントの感想が他人と被って内心毒づく姿は、仕事に対する準備は一応する姿勢とテンプレートな感想におちつく作品への思い入れの弱さが伺える。またその場で考えたトーク内容「モブ役の自分は数合わせでイベントに呼ばれたのかな?/新人で”暇だから”この役すごい頑張りました!」からは言葉を選ばずストレートに自分の感想を話せる度胸の持ち主(アホ)だと分かる。

その後ビクビクしながらも観客の反応を見るために顔を上げる点、自分に好印象を抱いてもらえたと分かりドヤ顔する様子からは、人並みの承認欲求と人一倍調子に乗りやすい性格が想像される。

最後の極めつけは舞台袖に下がったあとだ。自分の出番は終わり表に立つ仕事が終了したならば、周りに誰もいない舞台裏のどこにいても注意されはしないだろう。しかし千歳は楽屋裏には戻らなかった。

ステージ裏からメインヒロイン役二人のライブパフォーマンスを期待に満ちた顔でずっと眺めていた。子どものように純粋に、憧れと期待に満ちた眼差しを向けながら。*4

そして歌い終わってポーズを決めた二人を真似るように、音楽に合わせて不恰好なターンを決めて無邪気に微笑む千歳。ライトの当たらない暗い舞台裏に浮かぶその笑顔からは烏丸千歳の一番根っこの部分、不器用で幼い子どものような生き方がせつなく伝わってくる。

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※余談だがアニメの前日譚が描かれた『小説ガーリッシュ ナンバー2巻』の巻末はこのシーンにつながるエピソードが書かれている。かなりの破壊力を秘めているのでもし読む機会があればぜひともお勧めしたい。 

ここまでの要素を組み合わせると、烏丸千歳は一見すると仕事への熱意があまりなく、承認欲求と人一倍度胸だけはあって図に乗りやすい性格だとわかる。そして彼女がとても幼いことも。しかしこのシーン以降、千歳がこのような表情を浮かべるカットはほとんど出てこない。2話からは常に自信満々で高笑いを響かせているせいで話数が進むにつれて記憶から薄れていくが、烏丸千歳は心から楽しんでると”あの表情”で笑うんだという事実を明示する重要な場面が、この1話冒頭には隠されていた。

つまり声優、烏丸千歳は純真な子どもさながらに自分が褒められて受け入れてもらえるステージに憧れていた。だからこそ、1話以降自分の非や現状を直視しないように見せかけの鎧で身を守る道を選んでしまった。

二つ目はステージ上のやり取りを用いて百花と万葉の関係を簡潔に提示しただ。

冷たいトーンでセリフ分担を行うメインヒロイン役の苑生百花と柴崎万葉。会話中は二人の目線は映されず、表情は影で覆われている。それは犬猿の仲のような雰囲気すら感じさせるが、いざトークの順番がやってくると明るい笑顔で作品について感想を語る二人。その後、事前に話し合ってたように目配せをしてから百花が曲振りをしてライブが始まる。その二人の表と裏、ONとOFFの激しい温度差に初見時の私は強い関心を持った。この二人に過去何らかしらのトラブルが起きたのか、それとも単に仲が悪いだけなのか理由は分からないがきっとこの関係はストーリに大きく関わると直感した。

そして何よりも印象的だったのが歌唱曲の「決意のダイヤ」である。曲単体としてのクオリティや強さはもちろん文句なしだが、一番注目したいのこの曲の立ち位置と演出としての使われ方だ。決意のダイヤは劇中アニメのオープニングテーマであり、百花と万葉が演じるヒロイン二人の決意を誓った曲になっている。これはおそらくそのまま苑生百花と柴崎万葉のキャラクター性、声優としてのポジションを表すための歌とも受け取れるだろう。だって1話冒頭でいきなりあのレベルの曲をお見舞いされたら、あーこの二人ヤバイやつらだって認識しちゃう。

またこのアニメで曲が流れるタイミングは登場人物たちが何かしらの危機やチャンスに対峙したときであり心情の揶揄にも使われる。つまり『ガーリッシュ ナンバー』のタイトルロゴを登場させてから曲がスタートするのは、少女たちの足跡を刻んだナンバー(曲)の文脈である。

少女たち-gi(a)rlish-の今を刻む曲-number-

消えない夢を追いかけて

強く強く駆け出した

きらめく未来だけを信じてる

誰より熱いこの胸で

いつかそこへ行くんだ

困難に打たれても割れぬだろう

ah 決意のダイヤ

 長々と書いてしまったがこの時点でまだ4分30秒しか経過していない。それほどまでに上記の二つの内容、「ありのままの烏丸千歳」と「百花と万葉の関係」は『ガーリッシュ ナンバー』の構成要素であり、欠かせないテーマである。しかしその要素を1話の冒頭に詰め込まれても初見で全部気付くのは難しくて(私は全く気付けなかった)、2話以降で明らかになる各キャラクターの心情や背景を頭に入れた上で再視聴すると新たな発見ができたりする。何度も何度も見ようね……。

以上が1話前半の感想だ。これ以降は本編の流れを意識しつつ主要なシーンを抜粋していく。

イベントが終わり楽屋で軽い打ち上げを行うキャスト陣。

和気藹々とした雰囲気の中で、人から笑われるようなイベント出演は役者の本分とかけ離れてるから出たくなかったと怒る万葉。ここで自分の求める役者像と声優、柴崎万葉に求められる声優像が正反対だと分かる。その後、場の悪い雰囲気から逃げ出すようにトイレへかけこんだ千歳に百花と女性キャストの話し声が聞こえてくる。

「(百花)あたしも客寄せパンダの自覚あるよ。でもそういうの押し殺してやるのがプロじゃん?」「(女)柴崎、自分に求められてるものがなにか分かってないよね。いまどき歌もイベントも当たり前で、私たちのギャラほとんどそれじゃん」

万葉とは対照的にプロとして振舞う百花。またイベント稼動ありきの客寄せパンダとして声優がキャスティングされる傾向にあるアニメ業界の背景、声優の収入事情も提示されている。

その後イベントの打ち上げで普段行けない高級焼肉店に舌鼓を打つ千歳。その近くの席ではスタッフ・プロデューサーが集客ありきで百花と万葉をキャスティングしたことやアニメがすべると株主に叩かれるのを愚痴のようにこぼしていた。ここからアニメの制作は政治的・商業的側面が色濃く反映されているのが再度読み取れる。

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打ち上げから帰宅してリビングのソファに寝転がる千歳。近くにはマネージャー悟浄の姿も。

ここで二人の会話から千歳と悟浄は兄妹であることが明かされる。兄的なのじゃなくて実の兄なのでご心配なく 二人の兄妹設定は「烏丸千歳」を理解するうえで極めて重要で、千歳の行動原理を辿っていくと悟浄に行き着くこともしばしば。ていうか千歳に妹属性あるってやばいな……

後日、いつも通りモブ役として収録に臨んだ千歳はひょんなことから百花と知り合いになる。

常に大御所声優である母親・苑生桜を通して自分を見られてきた百花はここで全くその視線を感じさせない千歳に興味を持つ。千歳は業界について人並み程度にしか関心がないのでその関係自体知らないのだが。また今をときめく人気声優と知り合えて喜ぶ千歳のミーハーぶりも伺える。

そして1話の最後は「アイドル声優×ラノベ原作」の人気コンテンツ同士をかけ合わせたら絶対売れると妄信した九頭Pがナンプロの難波社長に新アニメ(『九龍覇王と千年皇女』、以下クースレ)の話を持ちかける。そのTHE政治キャスティングによって新人で暇な千歳が偶然にもメインヒロイン役を射止め「勝ったな!ガハハ!」と高笑いしたところで幕を閉じる。

調子に乗りやすく自分の実力を過信している千歳にとってはようやく自分の努力が報われたと感じた瞬間である。しかし彼女はこの歪んだ成功体験に囚われて、ますます客観的に自分を直視できなくなる。仕事に対して投げやりな千歳とそんな彼女が熱意と努力もなしにメインヒロインになれてしまうおかしな業界、まさしく「やさぐれ千歳と腐った業界」のタイトルそのままだ。

トータルで見ると、冒頭の決意のダイヤで「ガーリッシュ ナンバー」の、アニメとして、この路線でこれからやっていくぞ!のやる気を充分に視聴者に見せつけた1話であった。

第2話「天狗な千歳と声なき悲鳴」

新たに八重と京が登場して5人でクースレのキックオフイベントに臨む回であり、息も合わずバラバラなガーリッシュ ナンバー(烏丸千歳、久我山八重、片倉京、苑生百花、柴崎万葉)が勢ぞろいしたスタートラインでもある。

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初公開PVの評判も良くますますヒロインを務めるクースレに期待が募る千歳、八重、京とは対照的にキービジュ・設定の未公開からまだ判断はできないとする百花、万葉。

ここで分かるのが千歳たちはアニメ現場の表側しか見る機会が与えられてない点だ。実際は、作者とアニメ制作側でキャラデザ等の設定で合意が取れていなかったりと決して順調ではない裏側がある。そもそも集客第一の歌って踊れるアイドル声優を全面に押し出す企画に雰囲気が合ってないファンタジーモノのラノベ原作が選ばれた時点で色々お察しではあるのだが。

しかしそんな都合の悪い情報は一切キャストには知らされていない。そう考えると人気声優である百花と万葉がやけに落ちついているのは過去に何度かこのような現場を経験していたからと推測できる。*5

次に楽屋での5人の振る舞いから性格と関係図を見ていく。

表に立つイベントが初めての八重はとても緊張しており、何度もイベントの流れを確認してはセリフ1つ考えるのにあたふたする始末。常に「はわわ!」と落ち着きのない彼女がイベント終わりに千歳に泣きつくシーンは二人の関係が分かりやすく描かれている。

同じくイベント経験の少ないはずの京が思いのほか落ち着いているのは、26歳年長としての自覚によるものかもしれない。他にも声優の夢を追いかけるために様々なアルバイトで生計を立てているのでこういった人前に立つ機会自体は何度かあったのだろう。また関西出身(本人曰く)で個性のある関西弁を話す京はキャラが立っていると千歳から警戒されたり、頼りにならないアニメ博士と評されたりしてる。

そして余裕綽々にスマホゲームやお菓子で時間をつぶす千歳。1話で見せた度胸は健在で今回もな・ぜ・か自信満々な姿にはもはや敬意すら感じる。百戦錬磨の百花から度胸だけは褒められるのもうなずける。また自信のない八重から見れば、いつもドシンと構えている同期の千歳に頼りたくなる気持ちも分かる気がする。

反対にイベント経験豊富な百花と万葉はトーク進行を任されているため、共演者のプロフィールを事前に確認してネタ確保をしたりと仕事に対しての備えをしていた。ここでも1話冒頭のように”仕事だから”求められたら応えなければならない「プロ意識」を見せている。この「仕事へのプロ意識」ガーリッシュ ナンバーの中でも非常に重要なテーマとなっているので頭に入れておきたい。あと二人一緒に楽屋入りしてたけど実は仲良いんですかね……そこら辺どうなの?  

その後、ナンプロの3人組で打ち上げへ。

いつも仲良しな千歳と八重が養成所時代からの同期だと判明して京はその関係を羨ましく思う。そして京にも同期はいたが今は自分ひとりの現状が語られる。その姿からは自分以外みんな声優を辞めてしまい独りだけになっても、未だにその夢を追い続ける人一倍声優に対する強い熱意が伺える。

京については作中であまり本人のバックグラウンドや悩みが描写されてないため印象に残りづらいかもしれない。しかし、同年代だからこそ万葉に寄り添えたり、持ち前の関西人な陽気さで場を和ませたりと本作に欠かせない登場人物である。

またキャラソン「Last Blue」では理想と現実のギャップ、それでも夢を追いかける一途な思いを大人らしさとせつなさにのせて歌っていたりと噛めば噛むほどに味のでるキャラクターだ。って誰がアラサースルメ声優やねん!

八重も同様に作中では深掘りされなかったキャラクターだが、彼女と千歳は養成所の同期以上に強い気持ちで結ばれていると感じさせるシーンは何度か見受けられる。特に2話Aパートで仕事の有無について気軽に聞き合っている二人に関心を持った人は、ぜひとも小説2巻を手に取ってほしい。千歳と八重の関係はとても良いですよ。

 

第3話「邪道な千歳と王道展開」 

千歳が初めてメインヒロイン役を演じる回であり、ド下手くそな自分の演技力に気付かされる回。記念すべき第一次千歳ショックである。ちなみに原作者の渡航はインタビューで「3の倍数がつく話数には何かが起こる」と意味深な発言をしていた。

私たち視聴者もこの話数までは千歳の演技はモブ役しか目にするシーンがなかったため実際に彼女の声優としてのレベルを今一把握しかねていた。

1、2話とあれだけ自信たっぷりに構えている彼女を見たらそれなりにやれるのでは?と思い込んでしまうのも無理ない話。まあ周りからの評価は散々だったので嫌な予感もあったけど。

そしてふたを開けると…………

 

 

 

 

 

 

 

棒だった。          

 

いや棒じゃなくてもはや線だった。定規で寸分の狂いも無く引いたのかってくらい完璧な直線でその意味では綺麗な演技。文房具で販売したらバンバン儲かると思うしメーカーさんどうですか?コラボとか。

そんな冗談が口をついて出てしまう程には酷い棒読み。あまりの酷さに自分まで恥ずかしくなる百花と呆れて千歳なんか視界にも入っていない万葉さま。 そして手応えバッチリな表情で席に戻る棒読みヒロイン。ホントにこのお姫様は自分が大好きだな……

そして収録後、仕事のやりがいを満足げに語りながら意気揚々と周りをご飯に誘っている有り様。そんな千歳に若干引いてる八重と京は、初めてのヒロイン収録で上手くいかなかった部分を音響監督にすぐ質問しに行く。同じ新人・売れない声優の立ち位置でも、この時点で既に作品や自分の演技に対しての姿勢が二人は千歳とまったく違う。正しくは千歳が枠外にいるだけで至極まっとうな行動なのだけれど。

その様子を見た悟浄に千歳はこってり説教されるがいつもと同じように反省したふりをして軽く受け流す。声優になる前から烏丸兄妹のパワーバランスはこうして築かれてきたんだろうなと連想させる一コマであり、兄弟だからこそ明確な公私の線引きができずに「言葉」が届かないことを感じさせるシーンである。

そんな千歳も2回目の収録では少しだけ練習してきたのか台本に書き込みが見られる。

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しかしメモが単語の意味から的外れなせいもあって独り言みたく零す悲しげなセリフなのに怒ってる演技をしてしまう。何度かリテイクしている内に22時近くとなり現役JKである百花(制服姿を拝めてないから実感ないけど一応女子高生)は労働基準法的に退勤するお時間。それに万葉も便乗して自分たちのセリフをパパっと1テイクで録って退勤。

流石の千歳も場の雰囲気から実力を自覚したのか目に見えて凹んでしまう。八重と京にご飯誘われるもあからさまに落ち込んで断るくらいに。あの自信満々な千歳の口から「悟浄くん……わたし本当にできてなかったみたい」が漏れるのはかなり衝撃的だった。

後日、千歳は百花に演技のアドバイスを求める。(ちなみに女性声優同士はそういった演技についての話し合いはあまり盛んじゃないらしい、ライバル意識が強いのかもしれない。反対に男性声優同士は熱く演技について語るとか)

直感型で半端な才能を持っている千歳は、理論的な助言よりも百花の「似てるキャラをパクれ」の一言で理解したのか次のアフレコまでにアニメを沢山見て勉強する。

そして1週間の成果がこちら

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前回とは比べ物にならないほど台本に書き込みをしてきて自分なりにキャラを理解した千歳。そのおかげもあってか、ちゃんとアニメの演技にレベルアップしており(八重・京曰く)収録自体もスムーズに進行する。あの意識高い系声優の万葉も面食らった表情してたからその違いは歴然なのだろう。千歳の場合はスタートがゴミクズだったのも大きいけど。

そして良いアフレコ、良い雰囲気なのもあって終了後にキャストで打ち上げへ。

会場に向かう道中。人との付き合い、嫌なことがあった時、嬉しいことがあった時”くらい”しかお酒を飲まないと語る万葉。それ結構飲んでるな…………だから今回の打ち上げに万葉が参加したのは「気分が良い時」だからと思いたい。

そんなこんなで千歳の演技もマトモになり、キャスト陣とも仲良くなってこれにてハッピーエンド♪第3話完!

 

で終わらないのがガーリッシュ ナンバー

プロとして業界にいる人間からしてみれば千歳の演技はそれでもまだ全然足りない。

確かに素人目で聞けば”アニメっぽい””それっぽい”演技水準には到達しているし、作品次第ではそのレベルさえ満たしていれば充分とされる現場もある。しかしそれは同時に他にいくらでも代わりがいる事実を含んでいる。つまり今の千歳は代替可能な存在であり、その命は大人の事情という期間限定の足場に支えられているに過ぎない。

だからこそ悟条は「テンプレートと記号のオンパレードでこの先通用しない」と千歳の声優人生を案じていた。また1話冒頭のアニメ作品で共演していた千歳の独特なモブ役(スピカ役)演技に関心を持っていた万葉は「つまらない演技」とレベルアップ後の千歳を一蹴していた。その場に居合わせた百花はそのつまらない演技こそプロとして私たち声優が求められていると自分自身に言い聞かせるように吐き出す。

他者から求められる演技と役者として求めたい演技。決して交わらない二つの針は更に歪な時を刻んでいく。

 

第4話「イケイケ千歳とゆかいな仲間たち」

遂にクースレ1話が視聴者の元に届けられる色々な意味で忘れられない回。あと歌います。

そんな4話のはじまりは千歳が欲望全開な夢を見ているアバンから。さっそく1話最速上映会のイベント控室でぐっすり睡眠できる大”バカ”物ぶりを見せつける千歳さま。

ここで声を大にして言いたいのが夢の中では千歳が悟条に褒められてる点。しかも千歳から悟浄の肩に抱き着いてるんですよ、それも恍惚とした表情で甘えるように。夢で悟浄が呟いた「お前は自慢の妹だよ」のセリフ。この何気ない一言こそ烏丸千歳がずっと追い求めている夢であり、言葉の通り夢にまで見ている明日に他ならないんだよな……

余談だがアニメ全12話で悟浄が千歳を何回褒めたかカウントしてみるのも面白いかもしれない。

そしてイベントが始まる直前に九頭Pが二つのニュースを悟浄の元に持ってくる。一つ目のニュースはキャスト側に確認を取らず急遽イベント映像を配信&披露予定だったテレビサイズのOPがフル尺に変更(千歳・万葉・百花の三人がフル尺歌えるらしいと聞いて思いつきで)。相変わらずクズっぷりは千歳に引けを取らないなこいつ。

それに呆れていると二つ目のニュース。

「ごめんごめんw1話やっぱり間に合わなかったみたい^^」

 

………………

 

その後イベントが始まるもアニメ本編とは到底呼べない既出PVとカットをつなぎ合わせた映像が流される。当然1話を楽しみに来場したファンの中に疑問や落胆、怒りの感情が渦巻くことに。1話最速上映イベントで1話がお披露目されないのって、動物園行ったのにペンギン見れなかったレベルに辛いと思う。

しかしそんな今にも氾濫寸前の濁流をモーゼの如く真っ二つに切り裂いた人物がいた。千歳烏丸、彼女は誰もが目をそらしたくなる危機的状況を前に一歩踏み出した。「みんな盛り上がってるか~」、その場違いな発言に続くようにベテランの百花・万葉は目配せをして機転を利かせたアドリブで千歳のフォローに回る。

そしてクースレOP「 虹色Sunrise」の初お披露目。

彼女たちが歌いだすと先ほどまでの混乱が見る間に歓声へ変わっていく。こうして非難必至の上映イベントは何となく成功の雰囲気で幕を閉じた。

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イベント終了後、控室ではナンプロ3人組が1話TV放送日に実況して作品を盛り上げる予定を建てていた。それを背にして百花と万葉は”いつものように”一緒に現場を後にする。その帰り道では 「こんな(作品に直接関係ない)イベントを原作者が見ていなくて良かった」「でも(歌うことで)客席は喜んでくれていた」と、再度「求めるものと求められるものの乖離「プロとして仕事に責任を持つ義務」について触れていた。

そして待ちに待った1話放送日。近所のお祭りで女性声優らしく?遊んでから、一人暮らしの京のアパートに到着。スマホ片手にリアルタイム実況すべく、テレビの前で興奮交じりに正座待機する3人。

こうして彼女たちが初主演を務めた伝説のアニメ、その1話が産声を上げた。

 

 

「てや——————!」

 

 

第5話「ちょけった千歳とぼこぼこ評価」

第二次千歳ショックであり、千歳最ウザ回の第5話。それはもう軽く殺意すら覚えるほどのクズさ。そして本アニメ前半で描かれてきた「業界の実情」と「最後までやり遂げなければならない仕事の責任」に一層重点を置いた回となった。(例.仕事だからこそ最後まで投げ出さない監督や、九頭Pの身代わりにされて散々叱られるも逃げない十和田AP)

そして、それとは対照的に千歳に足りないものを描く回でもあった。

4話で披露したOP曲が(千歳)推定で1万枚売れたことにより、あやふやな数字に裏付けされた絶対的な自信を手に入れた千歳。それと同時に彼女は「プロ」の意味を履き違えたまま仕事するようになる。

それが顕著に表れているのが、ナンプロ3人組がクースレ最終回のアフレコ前に、店頭での評価が気になり某アニメショップへ赴くシーンだ。今期アニメのCDやグッズ、原作がずらりと並ぶ中で、千歳が見ていたのは店頭ディスプレイで流れる自分たちのミュージックビデオの一点だけだった。そして「良い歌、良い歌詞、良いわたし」と上機嫌に頬を緩ませている。

しかし京は、店頭で紹介されている他の今期アニメとクースレを見比べて悲惨な現実を直視しており、アニメ本編の質を何より懸念しているのが伺える。また八重もCDが1万枚売れたことよりも、初めてのヒロイン役を精一杯頑張ったアニメに対してちゃんと向き合っていた。

だが千歳はアニメ本編など気にも留めておらず、「1万枚声優」の肩書を抱きしめながらひたらすら自分を褒めていた。

この点から、千歳と八重・京では同じ声優ながら先に見据えているモノや仕事への向き合い方が全く異なっていると再認識させられる。

そして事あるごとに「わたしたちは”プロ”だよ」「”プロ”なんだから」「”プロ”足るもの」等の言葉だけのプロ意識を振りかざすようになる。これが本当にウザい。自然体でここまでウザく振舞えるのはもはや才能。

そんな”プロ”の千歳は八重・京と共にクースレのBlu-rayお渡し会に臨む。

本編のクオリティに落ち込んでいた八重・京だったが、実際にお渡し会に来てくれて自分の演技やアニメを好きなファンと直接話せて「声優としてのやりがい」に気づかされ、落ち込んでる暇あったら今まで以上に真剣に仕事を取り組もうと熱く決意した。

しかしここでも目の前のファンや作品に焦点が合ってない千歳は、薄っぺらい感謝を述べるだけで心は別イベントの稼働に大忙しの人気声優百花に向けられていた。

出演作品と並んで頑張ろうとする二人とは対照的に、自分のことしか考えていない千歳。この構図は5話以降も、何度も描かれていく。

そしてイベント終了後、そのお渡し会の様子が某ニコニコ〇画で配信されるのを知った千歳はコメントで自分が褒められるのを楽しみに待っていた。

自分を非難するコメントがあるとは全く考えもせずに……

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 【【【クースレ永久戦犯筆頭】】】

ここで千歳は初めて(自分の目で)叩かれていることを認識する。エゴサでは意図的に見ないようにしていた批判コメント。その光景に涙を浮かべたまま、帰宅したばかりの悟浄に泣き着く。悟浄曰く「大体コメントの内容はあってる」らしいが。

そしてネットの反応なんか気にするなと励ましつつも、お渡し会のアンケートを渡してファンに対する態度諸々改善する必要はあると言葉少なに語る。

しかし千歳はそのアンケートに目を通そうともしないばかりか、「なんで何もしてないのに叩かれなきゃいけないの!?わたしを褒めてるのだけ読む!」と駄々をこねるように自室へ逃げていく。

仕事への熱意や努力、ファンへの感謝といった物を何一つせずに自分に都合の良い情報しか聞きたくないとワガママを叫ぶ様子は、烏丸千歳の人間性がこれでもかと表れていた。

 

第6話「浜辺の千歳と通らぬ予算」

テコ入れ水着回

Blu-ray爆死を逃れるための秘策に、特典映像収録で沖縄へ旅立ったクースレご一行。キャッキャウフフな水着回と思いきや、その実情は経費を使い込みたい九頭Pの逃走劇だった。それはともあれ水着になる女性声優あっぱれとりあえず女性キャストを水着にして歌でも歌わせた映像を円盤特典にすればある程度は売れるでしょ、って目論見。実際欲しい。九頭もしや敏腕Pか?

ここでPV撮影と共に披露されたのが「いただき☆ハイテンション」

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しかし、本来の役者としての仕事しか認めたくない万葉は、水着撮影を初めは拒んでいる。悟浄の説得でどうにか納得するも千歳のように笑顔で撮影を楽しめずにいた。

その後、女性キャスト5人は同じ宿に泊まって打ち上げをすることに。そこでお酒の力もあってか、出身地の山形訛りで千歳と百花に説教する万葉。普段クールなイメージの人が、酔っぱらうと熱っぽく本音漏らしはじめるギャップずるい。

そして沖縄から帰宅してBパートへ

ナンプロ3人組がオーディションを受けるシーンでは、沖縄気分が抜けきらず頭にハイビスカスつけたままの能天気な千歳とは対照的に、自分が受ける役以外の演技も求められ長い時間オーディションに臨んでいた京、”前の収録現場”が押していたせいでオーディション会場に遅れてやってきた八重が描かれていた。

この時点で既に、千歳以外の2人は声優として順調にステップアップしてるのが明示されてるんですよね。ただ当の千歳はその事実に気付こうともしないだけで。確かにクースレが始まる前の2話段階では、モブ役で番組レギュラーを持つ千歳が新人声優の中では順調な方だった。しかしアニメで描写されなくても、クースレ始まってからも怠けずに演技を磨いてチャンスを掴み取った八重・京に比べて、ずっと千歳が立ち止まっているのは明らか。メインヒロインの肩書があっても、千歳は1話から何一つ成長してないのが痛感させられる。

また百花の家庭環境も描写されていた。大御所声優である”苑生桜の娘”として常に捉えられてきた百花。だからある種テンプレートな「親は親、自分は自分」の葛藤を抱えるキャラクターと思っていたが、どうやら百花の問題はそれだけではないらしい。

周りから置いてかれたのに気づかない千歳、周りからは見えない家庭環境に悩む百花・万葉。

業界の問題から個人の問題に焦点が移り変わる重要な回だった。

 

第7話「やじうま千歳と授業参観」

百花・万葉メインの回。千歳はモブ

「親」を共通の軸として、これまで端々に散りばめられてきた百花と万葉の苦悩、その核心に迫った7、8話。

特に注目したいのが従来の千歳主体の話数とは違い、モノローグが存在しない点。言い換えると物語の核となるキャラクターの心情や感情を直接的に、本人たちが独白形式で語らない構成を採用していることだ。

これまでは主人公である千歳の心情がダイレクトに私たち視聴者に届けられてきた。だが百花や万葉は頭の中で感情を吐露しない。なぜなら彼女たちは千歳ではないから。直接心情が描かれない=他人である彼女たちの心情はセリフや表情からしか読み取る手段がない。つまりこの回と8話では従来の千歳方式から距離を置いて客観的なリアリティ目線で、物語を観ていくことになる。

 

百花であれば何度も話に登場する大御所声優である母親との関係。

母が大物声優で父が大物監督の家系は、一般的に見れば非常に恵まれた家庭環境であり、声優を志す者であれば誰もが憧れてやまないだろう。そして百花は母親の名前が会話に出るたびに、いつも演じられた笑顔で対応してきた。これはベターな感情である著名な親を持った子どもの反発、自身の努力が親の七光りと一蹴されることへの不満、転じて「親という存在」に対する抵抗感と私は捉えていた。

だがこの7話で百花が見せたのは、万葉がお節介だと迷惑そうにしていた万葉の母親に対する羨望のまなざしだった。モノローグではなく表情で、言葉ではなく口元で。親の愛情に飢えた気持ちを雄弁に語っていた。

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 この憧れと諦めの混じった美しくも切ない表情、好きなカットすぎる

それとは対照的に、万葉は自分を心配して山形の田舎からわざわざ東京までお見舞いに来てくれた母親に対して嫌悪的な態度をとる。6話の水着映像を目にして、娘は納得したうえでその仕事をしているのか案じた万葉の母親。それを確かめるためにラジオの収録現場に山形土産を持参して応援しに来た母親に恥ずかしさと怒りをぶつける万葉。確かに授業参観のノリで親が仕事場に見学きたらとても恥ずかしいと思う。だって「わたしは子どもじゃないんだから」、万葉もきっとそう思ったに違いない。

お節介な親に、私は自立した大人だからと口出しされたくない万葉。

無関心な親に、私は年相応の子供だからと口出しをしてほしい百花。

お互いのないものねだりは、8話の温泉回で更に鮮明に描かれる。

第8話「ねぼすけ千歳と湯煙旅情」

引き続き百花・万葉メイン回。千歳はモブですらない

クズPのセクハラ発言を万葉の父親に謝罪するために一同が向かったのは……

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万葉の故郷である山形県銀山温泉(と思われる場所)

都会で生まれ育った百花と山形の片田舎で生まれ育った万葉。二人の対照的な親との関係はこうした出身地や育った環境にも視覚的に表れてる。万葉が見飽きた温泉街の光景に見惚れる百花のそれが印象的だ。

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 本来、人気声優として多忙な百花に1泊2日の山形旅行へ参加する余裕はない。しかし彼女はマネージャーからの電話を無視してでも、万葉の故郷へやってきた。劇中の彼女は山形に向かう新幹線の中で「別にあんたのためじゃないわよ…私のためだし」と発言している。百花は今まで抱え悩んできた親子関係改善のヒントを得ようと、万葉の両親に会いに来たのだ。

そして二人はそこで、互いにないものねだりをしていたことを悟る。

親はいつまでも親なのよ。声をかけて引っ張るのも親、信じて待つのも親、なのよ。

親も一人の人間だ。様々な性格を持ち中には子への愛情をストレートに表現できない不器用な親もいるだろう。同じようにそんな親からの愛情に気付けない不器用な子どもも。しかし百花と万葉の二人は、お互いの姿を通じてそれに気付くことができた。だから彼女たちは、更に前へ進めるだろう。こんなので、あんなので、傍から見れば単純な問題に、不器用な両手で取り組むことしかできない人物ばかりの世界に触れたから。

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第9話「焦燥千歳と疾走ルーキー」

順調に仕事を獲得している新人声優の八重に京、親の愛情に気付けたことで真摯な気持ちで仕事に取り組み人気声優の道を更に邁進する百花に万葉。こうしてガーリッシュ ナンバーの面々は成長していく。………………千歳を除いて。

そしてナンプロ主催の新人オーディションを合格したピカピカの新人声優、桜ヶ丘七海の登場と対比するかのように、烏丸千歳の置かれた行き詰まりの現状が浮き彫りになっていく。

「頑張る」ことをモットーとして、仕事への意欲と作品愛に溢れ、その努力で自然と現場の中心人物となる七海。「頑張らない」ことで自分の問題から目をそらし続け、周囲に責任転嫁してきた千歳。そして輪の中に千歳の居場所がなくなるのは時間の問題だった。

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その後、1話でゴリゴリの政治キャスティングから新人の千歳がヒロインを獲得したように、”同じく新人”の七海も事務所社長の猛プッシュにより主役級のオーディションへ送り出される。秘かな千歳の心の支えであり、言い訳の元でもあった烏丸悟浄をマネージャーに携えて。まるで書き順の滅茶苦茶な子どもの習字を先生が訂正するために、上からなぞりなおすように。

同じようにスタッフ側のクズとして描かれてきた九頭Pも、因縁の相手に出会ったことで千歳と呼応するように更に落ちこぼれていく。

第10話「闇堕ち千歳と失意のクズ」

今まで逃げてきた現実の袋小路に迷い込んだ千歳は、事務所主催のクリスマスイベントを機に自分の現状を理解する。千歳の武器だった根拠のない自信は既に跡形もなく、残ったのは「声優、烏丸千歳」ではなく「烏丸千歳という一人の少女」だった。

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ED後のエピローグ、暗い部屋で一人、昔いた売れない声優-烏丸悟浄のドラマCDを聴きながら少女は呟く。「私と同じくらい下手くそじゃん。なりたい自分になれてたら、こんな自分になってない。――悟浄くん何で声優辞めちゃったんだろう」虚空に投げかけられた問いに答える者はいない。残ったのは少女の悲痛な叫びだけだった。

第11話「揺れる千歳と決意の悟条」

本格的にキャストとして持ち前の努力を両手にクースレの現場に参加するようになった七海。反対に以前は必ず出席していたアフレコ後の打ち上げにも参加せず、抜け殻のように落ち込んだままの千歳。

その様子を心配していた八重は大好きな千歳を元気づけようと、自分の感謝を伝える。しかし、腹黒キャラとして千歳にいじられてきた八重の言葉は、どんなに気持ちを込めても届かなかった。「わたしの言葉…ペラいから」そう悟浄に打ち明ける彼女の姿は見ていて胸が痛むほど。それでも養成所の頃から大切な親友の千歳を思った八重の一言に、声優時代からの付き合いだった京の一言は、「兄とマネージャー」の狭間でどのように振る舞うべきか悩んでいた悟浄の背中を押したのだった。

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夜の公園でそれぞれが思い思いに千歳について話し合う。彼女たちの放つ一見厳しい言葉の裏には、千歳への温かい気持ちがこれでもかと張り付いていた。今までウザいくらい生意気に振る舞っていた千歳だが、それでも八重・百花・万葉・京の4人はそんなヒロインのことを仲間として受け入れ成長してきたのだ。そして一視聴者として声優‐烏丸千歳に憧れて業界に入った七海にとって、千歳は太陽のような存在で。自分の周りを見渡すのが怖くて避けてきた千歳本人が、あとはそれに気付くだけ。

「ガーリッシュナンバー 11話」の画像検索結果

失意のどん底にいた千歳はこれまで抑えてきた不安や苦悩を悟浄に告白する。自分の置かれている立場を理解したうえで、厳しい現実の壁を前にしてなお、吐き出した感情。それは自分を好きであり続けたい、そんな自分を好きになってほしい、ありのままの自分で一番になりたい、という我がままで自分勝手な願い。しかしそれは烏丸千歳にしか持ちえない強さでもあった。その力は兄の悟浄にはなかったもので、だから悟浄はそんな傲慢な意思を手放さない千歳を、はじめて認めたのだった。そしてそれは千歳が今まで追い求めていた言葉に他ならなかった。

暗い部屋で一人嘆いていた少女はもう大丈夫。

烏丸千歳として再び歩き出したのだから

第12話「烏丸千歳と……」

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彼女は選んだ。

特別なんかじゃない声優、烏丸千歳を。

彼女は足をかけた。

世界で一番大好きな兄の悟浄が越えられなかった葛藤の壁に。

彼女は走り出した。

不器用に描いた夢を叶える明日に向かって。

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明日への途中で

明日への途中で

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さぁ行こう!

駆け上がる空に 光を探して ほら(Even if)

何か見えた気がした(ねぇそうでしょ?)

不器用に描いた 夢叶えに行こう

今私らしくあるために

肩と言葉 並べながら

キミの本音 聞かせてよ

ひとつひとつ 紡いでいく物語(キセキ)

明日への途中で…

だから今日もどこかでクソ新人の声優、烏丸千歳は高らかに笑っているだろう。クズでアホで憎たらしくて、周りが引くほどのクソ度胸で傲岸不遜に仁王立ちをしながら。おかしな業界に負けないように”烏丸千歳”らしく、美しさすら感じるほどの不器用な見栄を張って。ヒロインになるために

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「勝ったな!ガハハ!」

 

 

 

*1:事務所で売れている声優と抱き合わせで新人声優も出演させてもらうこと。小説や漫画版で何度か用いられた用語

*2:小説1巻参照

*3:千歳のマネージャーである悟浄や制作陣、8話では千歳が登場せずに話が進むがあくまで”千歳視点”をベースに考える

*4:実際に眺めているシーンは描かれてないがその後の行動から袖orモニターでステージを見ていたと推測できる

*5:12話で百花と万葉が初ヒロイン時のエピソードを、集客ありきのキャスティングのせいで周りからは疎まれて控え室で一人きりの最悪な思い出と語っていた。