アスイロ恋模様

140文字に収まらない感想や妄想の置き場です

amazarashiの「隅田川」に映る影と踊るひかり

 2019年もはやいもので残りあと2ヶ月となった。私は季節の変わり目を肌で感じる度に衣替えをするように特定アーティストの曲ばかり聴くことがしばしばある。春から夏にかけてはASIAN KUNG-FU GENERATION無限グライダーに乗り込み、夏から秋にかけてはフジファブリックで遠くに消える陽炎をただ眺めて、秋から冬にかけてはamazarashiで部屋にこもり自分にとっての爆弾を探して。春を連れてきてくれるのはいつだってアニソンで、年中聴いてる大森靖子はたぶん一種の持病だ。

 だからここではamazarashiの「隅田川」という曲について今の私が感じていることを書いていく。

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 「隅田川」はamazarashiのメジャーデビューミニアルバム「爆弾の作り方」の5曲目に位置する曲で、このアルバムは1つのテーマとして「夏」が各曲に組み込まれており、「隅田川」の歌詞にも花火・浴衣・蝉時雨等の季語が登場する。

 でもそれだと夏の曲だからわざわざ11月に取り上げることなの?と思われるかもしれない。確かに夏曲(このワード自体はあまり好きではないが)の側面は大きいと思う。上記の公式ライブ映像を見ても夏の切ないラブソングを連想させる。

 だがこの「隅田川」について私が一番強く感情を揺さぶられたのは「自分が好きで信じたものに正直になれなかった後悔」を歌ったことだ。ここで扱う「好き」は恋人同士や恋愛関係に限定するものではない。アイドルとオタク、声優とオタクのような「芸能人:ファン」の距離感でも通じるものだし、アニメやゲームといったコンテンツでもいい。私はある女性声優が好きなのでここでは後者の立場で話を進めていきたい。

 「隅田川」は隅田川と花火を舞台に二人の登場人物(僕とあなた)が描かれている。それを念頭に置いた上で歌詞を抜粋して見ていく。

面映い思い出一つ 紐解く手が震えています
幸せとは つまり つまり あなたのことです
古い歌口ずさむたび それと見紛う 面影を見る
さわれないなら いっそ いっそ 消えてください

照れくさい昔の記憶に写るあなたは僕にとっての幸せそのもので、その時聴いていた歌にはあなたが染み付いているのに目の前にいないのは辛いから、こんな思いをするくらいなら忘れてしまいたいという感情。やさしいメロディに乗せて歌いだされる喪失は不思議なくらい無抵抗に私を映していた。「自分(わたし)のことを歌っているような歌詞」は共感や感情移入を超えて自己投影に至る。この段階に入ると自分の現状に置き換えて曲を聴くことから抜け出すのが困難になる。ここで「僕は私に、あなたは推しに」変換されて物語が進んでいく。

日暮れて 連れあう街に蝉時雨
繋いだ手と手を離さなきゃよかった
僕を支えてくれていたのは いつだって

 自分が好きだった認知度の高くないコンテンツがメジャーになるとどこか興味をそがれてしまう経験はあるだろうか。推しの人気が急上昇して一気にファンが増えたときに自分1人の価値が薄くなったように感じてしまう経験を。推しからファンへの愛は1をファン数で割るのではなく、ファン全員で1を形成しているとは一切考えずに序列ばかり気にしてしまう経験を。そんな蝉時雨の1匹でいることに耐えられず他界したものの簡単には忘れられなくて、時間が経ってからやっと気付かされる。僕を支えてくれたのはいつだって

笑いあう喜びでした 許しあういたわりでした
見落としそうな程小さな 特別達でした
隅田川花火が咲いて 散るまでには会いに行きます
移ろう季節の真ん中で全てが綺麗だった

サビの後半で曲名である隅田川と花火の歌詞が登場する。私は隅田川の花火大会を実際に目にしたことはないが非常に規模の大きく東京都の誇る一大イベントと認識している。幸い私の地元でも信濃川に大輪の花が咲く長岡花火と呼ばれるイベントが毎年開催されているため河川敷から眺める花火の美しさを人並みには経験していると思う。話を戻して、多くの支流と合流するその「隅田川」はまさに推しとファンの人生を比喩していると私は感じた。その上で咲く花火は「ライブ」。川の流れのように人の心は常に変化していて、だからこそ今この瞬間この感情でしか見届けることのできない花火(ライブ)は本当に全てが綺麗なのだ。

 そしてこの曲は次のように締めくくられる。

火影に群がる虫として 僕はあなたに焦がれて
幼い強がりかなぐり捨てて 素直になれたらそれで良かったんだ

本当に欲しかったのは そこにあった笑顔だけでした
それだけで僕はどこまでも 行ける気がしてたんだ
隅田川花火が咲いて その真下で出会いと別れ
あなたがくれたその全てに ありがとうって聞こえますか

隅田川」に映る私の影の光源、それは太陽のように輝く推しそのもので

無邪気に水面に揺れて踊るひかり、その光景だけで充分だった

 

私はこの曲を聴くたびに推しについて考えると思う。繋いだ手を離すことのないように、移ろう季節の真ん中で。

 

 

 

爆弾の作り方

爆弾の作り方

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